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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

桜田の上屋敷が、甲府綱重の本邸になるため、新たに麻布白金台に替地が与えられ、伊達家では愛宕下の中屋敷を本邸に直した。

三月二十九日に、将軍家綱が、小石川の堀普請を上覧されたことも、四月二日に、普請奉行以下十五人が江戸城へ召され、将軍から慰労のことばと拝領物があったことも、やはり甲斐は山の小屋で聞いた。

また、江戸で茂庭周防が、首席国老を辞任したことを、五月二日に聞いたが、そのとき甲斐は、いちど館へ帰った。それは長男の宗誠が、十五歳になって元服するのと、端午の節句とが重なるからであった。

妻の律は志田郡松山にいた。松山の館では、茂庭佐月が病臥ちゅうなので、看護のためにゆかせたのである。それは甲斐が帰国するとすぐのことで、律はそのまま松山にとめられていた。律はしきりに手紙をよこして、帰りたいから迎えに来てもらいたい、とせがんだが、甲斐はみなにぎりつぶして、一通の返事もださなかった。

宗誠は元服して帯刀となのらせた。そして端午の節句を済ませると、甲斐は甚次郎(山)の小屋へ去った。

このとき、年号が「寛文」と改元されたことや、幕府の国目付が、五月二十五日ころ仙台に着く予定だということを聞いたので、そのまえに仙台へ出るため、十七日に山をおりたのであった。