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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

と断わってそのままひきこもった。

三日目に奥山大学から会いたいといって来た。甲斐が挨拶にいったとき、大学は城中にいたし、甲斐は玄関だけで帰った。そのときも「所労であるから」と断わっておいたので、招きの使いにも同じことを述べて、会いにはゆかなかった。

二十三日になって、国目付衆は二十七日に到着する、という知らせがあった。同じ日の夕方、なんの前触れもなしに妻の律が来た。甲斐が風呂をつかっているうちに来たもので、風呂から出ると、律がそこに着替えを持って待っていた。甲斐は眉をひそめたが、黙って着物を着、居間へはいっていった。

仙台では、矢崎忠三郎と松原十内とが、甲斐の身のまわりの世話をする。忠三郎は舎人の弟で十五歳、十内は松原十右衛門の子で十六歳だった。だが律が来たためだろう、二人はさがったままで、律が茶をはこんで来た。

「どうぞお怒りなさらないで」と律が囁いた。

甲斐は居間の端に坐って、昏れてゆく庭を眺めていた。ここにも樅ノ木が多いが、片側に大きな胡桃の木が三本あり、いずれもその枝に花の房を付けているのが見えた。くるみか。甲斐は心のなかで呟き、「くるみ味噌」