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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

「二人が夫婦になったことは間違っていたようだ」と甲斐が静かに云った、「おまえが良い妻でなかったと云う以上に、私が良い良人でなかったことはたしかだし、おまえが不仕合せだということも知っていた、だが、これもおまえの云うように、知っていながら私にはどうしようもなかったのだ」

律はまた咽びあげた。「お願いです、あなた」と律はくり返した、「どうか離別などなさらないで、もういちど船岡へ帰らせて下さいまし」

「もうきまったことだ」

「わたくし松山へは帰れませんわ」

「仙台にいるがいい」

「大町の家にですの」と律はすすりあげた。

「ここから呼べば答えられるような、あんな近いところにいろと仰しゃるんですの、ここにあなたがいらっしゃると知って、おめにかかることもできないのに、――あなたはむごいことを仰しゃるわ」

「なにがむごいかということは、やがてわかるだろう」と甲斐が云った、「たのむから泣かないでくれ、人が来る」

忠三郎と十内が膳をはこんで来た。律は立って襖をあけ奥の間のほうへ去った。

「十右衛門に相手をしろと云ってくれ」と甲斐が云った。

忠三郎が給仕に坐り、十内がその父を呼びに立った。