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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

「まちがい、――ああ、それはいかがですかな」と喜兵衛はまた苦笑した、「山へこもるとまるで野人のように変ってしまわれますし、私どもはお側にいませんのでよくわかりません、昔からふしぎなくらい女には潔癖な方ですが、まちがいがないかどうかということは、いかがでございますか」

「わからない男だ」と周防は嘆息して云った、「船岡にはわからないところがある、どこということはないが、ふとすると心がつかみにくくなる、あの年でそんな女どもにつきまとわれて、それを伴れてまわる、などという気持もまるでわからない」

「私は館へ帰りたいのですが」と喜兵衛が云った。

「おれは船岡に会わなければならない、古内のことはおれから話しておこう」

喜兵衛は「お願い申します」と云って去った。

甲斐が戻って来たのは、午後三時すぎたころであった。――そのまえに、周防は小屋を出てゆき、山の尾根を歩いていた。風のない、暖かな一日で、陽に蒸された枯草が、溶けて土に浸みこむ斑雪とともに、あまく匂っていた。枯木林から、小鳥の群が、騒がしく鳴きながら、小砂利を投げるように落ちていった。すると、遠いどこかで、樹を伐る斧の音が、こだましながら聞えた。