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きゅうこんさんじゅうし
求婚三銃士
佐々木 邦
「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页
しかし大谷夫人に言わせると、正月早々地方へ出て行くのは下廻りだ。
「火事も恐ろしゅうございますが、もっと恐ろしいものがございますわ」
「地震でございますか?」
「いゝえ、火事泥ってものがございますから」
「でも、宅へはお役所の人達が直ぐに駈けつけて下さいました」
「宅へも銀行の人達が悉皆集まってしまって、その騒ぎの方が大きいくらいでございました」
「宅では主人が出張勝ちですから、同僚の方々に特別にお頼みしてございますの」
「お役所は会社や銀行と違って、小使さんが多うございますから、あゝいう時には調法でございますわね」
と胸に一物ある大谷夫人は甚だ辛辣だった。
「…………」
「丁度風下に当っていましたから、宅でも好い心配を致しました」
と橋本夫人丈けは額面通りの意味で、為めにするところが少しもない。
「奥さま、私、安達さんの現金なのには驚きました。家よりもお宅でございます」
「オホヽヽヽ」
「火の手を見ると直ぐにお宅へ駈けて行ってしまって、もう帰って参りません」
「有難うございました。屋根を守ると仰有って、弼と二人で屋根から見物でございました」
「私、後から諢ってやりましたの。