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いきにんぎょう
活人形
泉 鏡花
「探偵小説第十一集 活人形」春陽堂、1893(明治26)年5月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,111 字 · 82 页
と帽子を取って目深に被り、戸外へ出づればかの男は、何方へ行きけん影も無し。脱心たりと心急立ち、本郷の通へ駈出でて、東西を見渡せば、一町ばかり前に立ちて、日蔭を明神坂の方へ、急ぎ足に歩み行く後姿はその者なれば、遠く離れて見失わじと、裏長屋の近道を潜りて、間近く彼奴の後に出でつ。まずこれで可しと汗を容れて心静かに後を跟けて、神田小柳町のとある旅店へ、入りたるを突止めたり。
泰助も続いて入込み、突然帳場に坐りたる主人に向いて、「今の御客は。と問えば、訝かしげに泰助の顔を凝視しが、頬の三日月を見て慇懃に会釈して、二階を教え、低声にて、「三番室。」
四番室の内に忍びて、泰助は壁に耳、隣室の談話声を聞けば、おのが跟けて来し男の外になお一人の声しけり。
「お前、御苦労であった。これで家へ帰っても枕を高うして寐られるというものだ。「旦那もう帰国ますか。この二人は主従と見えたり。「ああしてしまえば東京に用事は無いのだ。今日の終汽車で帰国としようよ。「それが宜うございましょう。そうして御約束の御褒美は。「家へ行ってから与る。「間違ませんか。「大丈夫だ。「きっとでしょうね。