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いきにんぎょう
活人形
泉 鏡花
「探偵小説第十一集 活人形」春陽堂、1893(明治26)年5月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,111 字 · 82 页
」
お藤は得三の手籠にされて、遂には帯も解け広がりぬ。こは悲しやと半狂乱、ひしと人形に抱き附きて、「おっかさん! と血を絞る声。世に無き母に救を呼びて、取り縋る手を得三がもぎ離して捻じ上ぐれば、お録は落散る腰帯を手繰ってお藤を縛り附け、座敷の真中にずるずると、髷を掴んで引出し、押しつけぬ。形怪しき火取虫いと大きやかなるが、今ほど此室に翔り来て、赫々たる洋燈の周囲を、飛び廻り、飛び狂い、火にあくがれていたりしが、ぱっと羽たたき火屋の中へ逆さまに飛び入りつ、煽動に消える火とともに身を焦してぞ失せにけり。
颯と照射入る月影に、お藤の顔は蒼うなり、人形の形は朦朧と、煙のごとく仄見えつ。霊山に撞く寺の鐘、丑満時を報げ来して、天地寂然として、室内陰々たり。
かかりし時、いずくともなく声ありて、「お待ち! と一言呼ばわり叫びぬ。
思いがけねば、得三等、誰そやと見廻す座敷の中に、我々と人形の外には人に肖たらむ者も無し。三人奇異の思いをなすうち、誰が手を触れしということ無きに人形の被すらりと脱け落ちて、上の顔顕われぬ。呀と顔を見合す処に、いと物凄き女の声あり。「無法を働く悪人等、天の御罰を知らないか。