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いきにんぎょう
活人形
泉 鏡花
「探偵小説第十一集 活人形」春陽堂、1893(明治26)年5月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,111 字 · 82 页
行末思い佗び、涙に暮れていたりし折から、かの八蔵に見とがめられぬ。それのみならず妹お藤を、今宵高田に娶すよしかねて得三に聞いたれば、こもまた心懸りなり、一度家に立返りて何卒お藤を救いいだし、またこそ忍び出でなんと、忌しき古巣に帰るとき、多くの人に怪ませて、赤城家に目を附けさせなば、何かに便よかるべしと小指一節喰い切って、かの血の痕を赤城家の裏口まで印し置きて、再び件の穴に入り冥途を歩みて壇階子に足踏懸くれば月明し。いずくよりか洩るると見れば、壁を二重に造りなして、外の壁と内の壁の間にかかる踏壇を、仕懸けて穴へ導くにて透間より月の照射なり。直ぐ眼の下は裏庭にてこの時深き叢に彳める人ありければ、(これ泰助なり)浴衣の裳を引裂きて、小指の血にて文字したため、かかる用にもたたむかとて道にて拾いし礫に包み、丁と投ぐればあたかも可し。その人の目に触れて、手に開かれしを見て嬉しく、さてお藤をばいかにせむ。
この壇階子の中央より道は両つに岐れたり。右に行けば北の台なるかの座敷牢に出づべきを、下枝は左の方に行きぬ。見も知らざる廊下細くしていと長し。肩をすぼめてようように歩み行くに、両側はまた壁なり。