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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

すると、このとき家の中でボソボソ囁き交わす人の声を聞き咎めた。

「オヤ、……」

僕は二重の驚きをもって、雨戸から後へ飛びのくと、そこに掛っている表札を読んだ。

――浅間新十郎――

ああ、やはり我が家に違いない。――それでは何者か忍びこんでいるのだろう。

僕は再び雨戸に近づいて、聞き耳を立ててみた。

「どうも遅いのネ。まあ困っちゃうわねえ。……」

そういう声音には聞き覚えがあった。虎御前こと丘田お照の、虎になっていない心配そうな声だった。

「浅間氏が早く帰って来てくれぬと、このりん太郎とて、手の下しようがないですな」

りん太郎? すると街の科学者速水輪太郎がわざわざ訪ねて来ているのか。なにか一大事が起りでもしたような口ぶりである。

つづいてお照のヒステリックな声がした。

「……『深夜の市長』さんに万一のことがあったら、あたしゃ、浅間の奴の咽喉笛を喰い切ってやるわ」

「いや『深夜の市長』の行方がこのまま分らないそのときは浅間氏の始末については君の手なんか借りないです。私が彼氏を霊振機に掛けて、彼氏の生命はなくなるとも、彼氏が『深夜の市長』について知っていることだけは、絞りだしてごらんに入れるです」