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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
その金を受取った人間が、多分刺し殺されたのだろう。なぜなら彼はその狂える時計を持っていた上に、十銭ニッケルさえ持っていた。そいつは強い磁力を持っていた。ではそのニッケル貨幣が、時計を狂わせることになったのではないだろうか? しかしそのニッケル貨幣はなぜそんなに強い磁力を持っていたのだろうか。そして彼はまた何故に刺し殺されなければならなかったのだろうか?
続いて思いだしたことは、目黒支店で、例の金を受取っていった男の右手の指が四本しかなかったことだ。しかもこの四本指の手首は、あの夜、刺殺現場から程遠からぬ油倉庫の火事場に落ちているのを見た者があると、「深夜の市長」は話をしている。果してそれが本当で、四本指の手が同一人物のものだったら、これは一体どういうことになるのだろう。失踪したと断定されている「深夜の市長」は、どうした訳で姿を隠したのだろうか。彼こそこの不思議な事件の持つ秘密を僕等よりもはるかに詳しく知っているのであろうが、失踪したとすると、聞く術もないのが残念だった。でも、この夜の「深夜の市長」の失踪も、実はあの四本指の男の刺殺事件と密接な関係があったことを後で知って、驚倒したが、その夜はそこまで見透す力がなかった。