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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
それがいま掌に附着したのだった。自分は犯人でないことを知っているからいいが、もしやこれを他の人に見られたとなると、これは簡単には無罪を信じて貰えないことだと思った。僕は俄かに不安な気持に襲われた。
そのときのことである。ピイ、ピイ、ピイッと、鋭い笛の音が聞えた。ピイ、ピイ、ピイッと、しきりに反復しながらこっちへ近づいてくる様子である。それは確かに夜勤の警官たちが同僚の密行警官や刑事たちを呼びあつめるための呼笛だった。――それはますますこっちへ近づいてくる。もうすぐに、向うの小暗い辻から隼のように敏捷な警官隊が現われてくるだろうと思われた。
「これはいけない。……」
僕は慄然とした。先刻感じた不安がまた蘇ってきたのだった。こんな土地の警官に捕えられてはならない。しかも現在の立場は先刻よりも一層不利になっている。オーヴァその他は血に染んでいるし、ポケットにはこの事件の証拠物件が秘められている。しかも事件を感づいた警官隊は、もう身近かに迫っている。これで捕えられれば、四の五のはない。なにもかもお終いだ。
「脱走!」
そのときの僕の顔色は、紙のように褪せていたろうと思う。