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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「……君みたいに、『深夜の市長』をこきおろす人間には、始めてお目に懸ったよ。君は冗談を云ってるのだろう」
「なにが冗談なものですか」と町子は彼女を鎮めようとする一夕刊売りの少女千代子を押しのけて噛みつかんばかりの顔を突きだした。「じゃ、納得のゆくように何もかも話をしたげるわよ。それには、なぜ千代子さんが夕刊を売らなけりゃならなくなったか、それから話をするわ。最近まで千代子さんは兄さんと二人で暮していたのよ。兄さんは見掛けは悪いような人だったけれど、気はそりゃ優しくって、そしてほんとに正直な人だったのよ。……」
「正直な人だった? だったというと……」
「ええ、だったのよ。だって今は居ないのですものネ。死んでしまったかも知れないの。いや、殺されちまったんだわ!」
「殺されちまった! それは穏やかでない話だネ」
「穏やかでないことが、貴方にも分る。……そう分るならそれでいいのよ。千代子さんの兄さんを殺したのは一体誰だったでしょうか。……」
水兵服の町子は、そこで傲然と胸を張り、その上によく肥った腕を組合わせた。
「…………」
「この可哀そうな千代子さんの兄さんを殺したのは一体何処の何奴だったでしょうか! 知っている? 知らない?……では教えたげましょうか。