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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

それはまるで、蚊が血を吸うときに、人間の身体に嘴を刺しこんだような恰好だった。――丁度一分ぐらい経ったと思われる頃、撥条が外れたようなジジーという音がした。すると速水は、床から器械を外すのであった。

「もう済んだのかい」と僕が訊くと、

「いや、次だ。……」

そういって、彼はクルリと腹匍いになると、その器械を抱えた儘、向うの方へソロリソロリと芋虫のように匍ってゆくのであった。……

そんな風にして、彼は床の下をあちらこちらと匍いまわり、およそ二十近い個所に、丹念にかの器械の嘴を突きたてては、ジジジーと止めの音をさせていった。僕はいい加減退屈したころ彼はその器械を袋の中に収めた。

「もう済んだのかい」

「準備は済んだ。これからいよいよ本舞台だ。君、こいつを頭から被りたまえ、こんな風に……」

どこに持っていたのか、彼が私に渡したものを見ると、ゴム製の防毒面のようなものだった。しかしそれはたいへんに簡単で、まるで海水帽を少し長くしたほどの手軽なものだった。なぜそんなものを被るのか分らないが、云われるままに、彼を真似て頭の上からスッポリ被った。彼は手を伸ばして僕のマスクを直してくれた。