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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

窓を明けると、外は地下道になっていたって別に不思議はない。

「ここをずっと行くと、地上に出てよ。……じゃ、しっかりあたしの敵をとって来てね」

お照の甘ったるい声に送られて、僕は窓を跨いで小暗い地下道に下り立った。しかし、そのときはこれがお照との永のお別れになろうなどとは気がつかなかった。

少しずつ上り坂になった地下道をグルグル廻ってゆくと、やがて一つの扉にぶつかった。それを押してみると、苦もなく開いて、雑然と木箱やバケツの転がっている物置のような部屋に出た。そこを構わず出てゆくと、階段があって、それを登り切ると、直ぐに出口がひらけ、自動車が河のように流れている明るい街路が見えた。外に出てみると、なんのこと、今出てきたのは有名な××ビルだったのには愕いた。――僕は早速、通りがかりの円タクを呼びとめて、市庁へ急がせた。

市庁の前は、いつもとは違い、どこから集ってきたのか、黒山の人だかりだった。それはどうやら市政に興味を持つ市民の群らしかった。今日の市会の険悪な雲行が露骨に反映しているかのようであった。

秘書課に名刺を出して、市長に面会を求めたが、市長は今日はまだ登庁していないということだった。