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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

肉づきのいい丸い頤は、先のところでふっくらと二重頤になっていた。そして膚と襦袢との間から、懊しい年盛りの女の香気がムンムンと立ちのぼってくるような気がした。その妖艶な肢体を望んでいると、僕はなぜかこの女を犬のように心安く扱う「深夜の市長」のことが、嫉妬されてきて堪えかねた。――僕はまた破れ椅子の上にソッと腰を下した。

「あの『深夜の市長』というのは何者ですか」

「おやッ、用事はないといった癖に……」と、女はそら見ろといわんばかりに僕の方に妖艶な面を向け、「そんなことは、あのひとに直接に聴いてみることだわよ」

女はアッサリと、僕の質問をつき放した。

僕は赭くなりながら、弾かれたように椅子から起ち上った。

「僕は、あの殺人の現場で拾った懐中時計と十銭玉とが急に入用になったんです。貴女は僕の家からあれを盗んでいったといいましたね。ではたった今、あれを僕に返してください」

僕は卓子を叩いて、女の方に迫った。

女はその言葉には驚いたと見え、急に半身を起しながら僕の顔を見つめた。

「なんですって? 時計と十銭玉が要るというの? なぜそんなことを云いだすの、あんたは……。