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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

どっちも、もう此処に無いことはよく知っているじゃありませんか。それとも……」

といって女は口籠ったが、

「それともこの妾が、隠しているようにでも思っているの。あんたは知らないだろうけれども、『深夜の市長』さんにいいつかったことを一つでも間違えようものなら、あたし達は一夜だって無事に生きてゆけないのよ。変なことを云い出さないでヨ」

「じゃあ、たしかに速水輪太郎に渡したんだな」

「分ってるじゃないの」

「よオし。それなら僕はこれから速水輪太郎のところへゆくんだ。君はその男の居る場所を知っているだろう。さあ、そいつを教えて呉れ給え」

「おや、だいぶ威勢がよくなって来たのねエ」と、女は隙を見出してすかさず弥次ることを忘れなかった。「それで輪太郎さんのところへ行って、一体どうしようというのさ」

「それは分ってるじゃないか。僕はこの変な事件や、この妙な環境から、一分間でも早く逃出したくなったのだ。速水氏から、僕の拾った証拠物件を返して貰ったら、そいつを直ぐその筋へ差出して堂々と裁きをつけて貰うつもりだ。僕はすこしも怪しいところなんかありゃしないのだ」

「へん、どうですかねえ。