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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

しかしそれは間違いではなかろうか。そのような筆法でゆけば、逆にいって、昼間のT市こそ、深夜のT市の睡りの状態であるかもしれないのだ。僕は知っている。深夜のT市は、昼間のT市とは全く別個の存在である。しかも極く少数の市民が住み、そしてその少数の人しか知らない不思議な都市である。面積や道具だての宏大な割に人口がきわめて不稠密な点からいうと、沙漠の上に捨てられてある廃都にも似かよっていたが、その魅惑的であり神秘的であり多元的である点については、沙漠に埋れている廃都などとは比すべくもない。……

僕は橋畔を離れて、こんどは広い大通りを柳島の方へブラブラと歩みはじめた。幅員が三十三メートルもあるその大通りのまん真中を、洋杖をふりふり悠然と濶歩してゆくのだった。こんな気持のよいことはなかった。大通りは頑固に舗装され、銀色に光る四条のレールが象眼されていた。頭の上をみると手の届きそうなところに架空線がブラブラしているし、大通りの両側のポールにはまるで大宮殿の廊下のように同じ形の電灯が同じ間隔をもって、ずっと向うの方まで点いて居り、それでいてあの大きな図体をもった市街電車もいなければ、バスもいない。