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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

「……いいかネ。火事場に転がっていた片腕というのは、右の腕だったよ。二人ばかり見た奴があったが、どっちの云うこともピッタリ合っていたから信用してもいい。その右腕は倉庫の水道口のところに転がっていて、明るい余燼の火を浴びているのが見えたのだが、そこはやはりプスプス燃えている焼け跡の中だから、踏みこんでいっては取れない。何か棒切れはないかというので、二人が一寸場を外して探しにいった後で、どうなったのか見えなくなってしまったのだ。うまく取出せば、これはまた面白いことになったがまことに残念だ。しかしその片腕については、もう一つ、面白い話がある。その手の指が四本しかなかったのだ。欠けているのは拇指だった。この指だ。……」

といって「深夜の市長」は自分の拇指を目の前へ出して、ピクピク動かせて見せたのち、それを鼻へ持っていって例の癖をスーッと鮮かにやってのけた。

「……拇指のない右腕が、あの火事場に転がっていた。そしていつの間にか見えなくなった。しかも焼け死んだ人間の心当りはないというのだから、面白い話じゃないか」

「それは、また下に落ちて燃えだしたか、それとも別の人が持っていったか、どっちかでしょうね」