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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
と、僕は次第に興奮を感じながら口を挟んだ。
「そうだ。そのどっちかだろう。ところが現場をいくら探しても、右腕の骨は見当らなかった。尤も他の骨も見当らなかったのだ。だからもともと腕だけが投げこんであったものか、それとも身体全体があって腕だけ焼け残っていたのか分らないが、とにかく油倉庫の火事のことだ。うまく真中のところで焼けると、人骨なんか粉々になって、形を止めないだろう。それはこの頃の火葬場のように、重油を使って焼いた屍体を見るがいい。実によく焼けているからねえ。あれをもっと火力を強くすることは訳はないのだ。そのとき人骨は粉々になってしまうだろうと想像するのは、これは容易なことだろうじゃないか、ねえ君」
「はア……。そうですねえ」
「いや思わず演説しちまった。儂は昔、雄弁大会というのを聞いたことがあったのでねえ。はッはッはッ」
「深夜の市長」は笑ったが、その笑いは妙な含羞の響きを持っていた。僕の方はすこしも笑うことができなかった。その理由は、誰にも分ってくれるだろう。……
遂に「深夜の市長」がその夜の順礼に凱歌をあげたのは、出発地とは途方もない見当外れの、T市の反対側に位するところの明治昼夜銀行目黒支店だったのである。