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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
それが長い長い一晩中絶えては続いた。つまり、彼はその部屋の真上の二階に、さっきの生首の女の、切り離された胴体が、みだらに血みどろに横わっている光景を幻想したからである。
一夜の苦悶の間に、さして厳重ではなかったいましめは、いつしかとけてしまったけれど、仮令手足丈けは自由を得たところで、けだものの檻の様に鍵のかかった扉と、鉄格子の窓にはばまれ、逃れ出すことは思いもよらなかった。
一睡もしなかった彼は、夜が明けると、外の広っぱに人通りがないかと、そればかりを待った。往来ではないので中々人通りはなかったが、やっとして十五六歳の少年が、窓の向うの生垣の外をハーモニカを吹き鳴らしながら通りかかった。
愛之助は悪魔がまだ同じ家にいると信じていたので、声をかけることを憚り、手帳を破って手紙を書き、銀貨を包んで重りにして、窓から少年の足元へ投げた。
幸い彼の意志が通じて、少年はすぐ様附近の交番へ駈けつけてくれた。そして、間もなく警官がやって来たのだが、実に奇妙なことには、愛之助の申立てによって、警官が調べて見ると、その家は全くの空家で、どの部屋にも人の住んでいた形跡はなく、主人公の幽霊男も、例の血みどろの生首も、女の胴体も、影も形もなく、どこの床板にも一滴の血のあとさえ発見されなかった。