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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

ネ、お分りでしょう。この間云った奇蹟。この東京のどっかでね。罪人を無罪にしたり、死人を生き返らせたり、生きている人を、全く分らない様に殺したり、自由自在の奇蹟を行っている、恐ろしい場所があるんです」と青年の声は段々低くなって、遂に囁きに変って行った。「あなた、今奇蹟が御入用じゃないんですか。だが、あなたはそれを買うおあしを持って在っしゃるかしら。此間も云った通り一万円なんです。びた一文かけてもいけないんです」

「君は、僕が人殺しの罪人だとでも思っている様子だね」

「エエ、そう思ってます。人でも殺さなければ、あなたみたいな、そんな恐ろしい顔つきになるもんじゃありませんからね。でも、ビクビクなさらなくってもいいんです。僕はあなたの味方です。どうです。本当のことを僕に打開けて下さいませんか」

青年は彼の耳元に囁きながら、母親が子供にする様に、ソッと彼の背中を撫でていた。

青年のお面みたいな均整な容貌が、彼に何かしら不思議な影響を与えた。この青年こそ黄泉から派遣された彼の救主ではないかと思われた。張りつめていた心が、隅からほぐれて行って、縋りつき度い様な、甘い涙がこみ上げて来た。