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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
青年は小切手帳を見ると、胸のポケットから万年筆を抜いて彼に渡した。
「一万円かっきりでいいのです」
「サア、一万円。だが、明日の朝でなければ現金に変らない。それまでに、僕の犯罪が発覚するかも知れぬが」
「それは、運命です。兎も角もやって見ましょう。明朝の九時、これを現金にすれば、すぐ奇蹟の場所へ御連れします」青年は腕時計を見て、「今二時半です。あと六時間余りの辛抱です。ナアニ、お酒を飲んでいれば直きたってしまいますよ」
だが、まさかバーで夜を明かす訳にも行かぬので、怪青年の案内で、愛之助は吉原近くの木賃宿へ泊った。想像程汚い部屋ではなかったけれど、悪酔いの苦痛の上に、何かしらムズ痒くて、疲れ切っていながら、寝入ることが出来ず、ウトウトとすれば、何とも云えぬ恐ろしい夢にうなされ、我と我が叫声に目を覚まして、飛起きると、身体中不気味な汗に、ベットリ濡れているといった調子で、つい朝までまんじりともしなかった。
配達を待ち兼ねて、新聞を持って来て貰ったが、見るのが怖く、といって見ないではいられなかった。思切って社会面を開いたが、開いたかと思うと、いやな虫けらででもある様にポイと枕元へ放り出した。