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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

二人はそうしたまま、三十秒程、見事に出来た生人形の様に、動きもせず物も云わなかった。

「ハハハハハハハ、明智君、人の悪いいたずらをしちゃいけない」総監はやっと元気を取戻して、泣き笑いの表情で、強いて大声を出した。「僕の似顔人形を作って、おどかそうなんて」

如何にも、トランクの中の人物は、赤松警視総監の似顔人形であった。肥った身体、丸い顔、愛嬌のあるチョビ髭、クリクリと丸い目、帽子も制服も帯剣も靴も、凡て凡て総監そっくり、髪の毛の数まで同じかと疑われるばかりだ。

「人形だとおっしゃるのですか」明智は毒々しい声で云った。

「もっとよく見てごらんなさい」

総監は悪夢にうなされた気持で、余りにもよく出来た、自分と寸分違わぬ生人形に見入った。

見ている内に、警視総監の心臓でさえも、ギョクンと喉の辺まで飛上る様な、恐ろしい事実が分って来た。

そいつは生きていたのだ。人形ではなかったのだ。確かに呼吸をしている。窮屈に曲げた腹部が、静かに波打っているではないか。パチパチと、瞬きさえしているではないか。

総監は余りの出来事に、採るべき手段を考える力もなく、放心の体で、トランクの中のもう一人の総監を眺めていた。