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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
「アア、令嬢の美禰子さんは?」
と伯爵と秘書官を見て云った。
「やっぱり心配になりますかね。芳江さんは非常な元気で、あちらの部屋にお在でですよ」
野村秘書官がニヤニヤして答えた。オヤオヤ令嬢美禰子さんがいつの間にか芳江さんと呼ばれている。芳江と云えば、この物語の前段に度々顔を出した青木愛之助の愛妻の名前ではなかったか。しかも彼女は「片手美人」事件で已に世になき筈の人だ。
「ところで、至急の用件というのは何だね、伯爵」
警視総監が、日頃とはまるで違った、失礼千万な言葉で伯爵に尋ねた。無論彼は伯爵が已に替え玉と代っていることを、野村秘書官から聞いていたのだ。
「ウン、実は非常な犯罪者がこの邸内にいるのだ。それを即刻捕縛して貰いたいと思ってね」
伯爵が落ちついて云った。
「犯罪者? 泥棒かね。そんなものを捕えるのに、総監自身御出馬というのは変な話だね。オイ、オイ伯爵、もうちっと自重してくれないと、化の皮がはげるぜ」
「泥棒なんかで君を呼びはしない。国事犯だ。イヤ、国事犯と云った丈けでは足らぬ。共産党よりも、革命よりも、もっと恐ろしい犯罪だ」
「オイ、伯爵、おどかしっこなしだぜ。