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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
に、暗中の人影に目をこらし、耳をすました。
ボーッと白く二つの顔が見える。だが、服装も顔の形も全く分らない。ただ声だけが手に取る様だ。彼等は人がいないと安心して普通の声で話している。
「では暫くお別れです。今夜東京へ帰れば当分来られませんから」
男の声が云う。
「宿でおっしゃったこと、お忘れなくね」女の声が甘える。「あの家へ御手紙を下さるわね。せめて御手紙でも度々下さらなきゃ、あたし我慢が出来ませんわ」
「エエ、精々どっさりね。あなたも忘れちゃいけませんよ。じゃ、これでお別れにしましょう。もう汽車の時間だから」
ボーッとして白いものが、双方から近寄って、ピッタリと密着した。長い長い間密着していて、やっと離れた。
「あたし、家に帰るのが、何だか怖くって。……」
「あの人にすまんと云うのでしょう。又始まった。大丈夫ですよ。決して感づきゃしませんよ。先生僕が名古屋へ来ているなんて、まるで知らないのですからね。それに今夜は帰りが遅い筈じゃありませんか。サ、早く御帰りなさい。あの人より先に帰っていないと悪いですよ」
不良青年ではない。言葉の様子では相当の紳士である。