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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
迚も一度帰宅して旅装をととのえる余裕はない。
青木は諦めて、無駄な尾行を止してトボトボと家路に向った。
公園を出て、広い新道路を五六丁も行くと彼の邸宅がある。考え考えその道の半程まで歩いた時、彼はふとある恐ろしい考えに襲われて、ギョッと立ち止ってしまった。
余りに意外な邂逅だった為か、その時まで、彼は彼の男の声のことを忘れていたが、そう云えば、姿を見なくとも、あれは赤い部屋でおなじみの、もう一人の品川四郎の声に相違なかったではないか。本当の品川と非常によく似ている様で、どこか違った所のある、あの声に相違なかったではないか。どうして、そこへ気がつかなんだのであろう。と考えて来ると、それに関聯して、ふと相手の女の方の声を思い出した。
「イヤ、あれも聞き覚えのない声ではなかったぞ」
途端、稲妻の様に、ある戦慄すべき考えが、ギラッと彼の頭の中にひらめいた。
「馬鹿な、そんなことがあってたまるものか。お前はどうかしているのだ。まるでアラビア夜話みたいに荒唐無稽な妄想じゃないか」
と思い直して見ても、さっきの女の、甘えた声の調子が、耳について離れない。まさかとは思うものの、まさかと思った品川四郎が、公園の暗闇から現われさえしたではないか。