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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
だが何も云わない。
「この手紙だね」
「…………」
「オイ、どうしたというのだ。アア、君は、筆蹟を見ているのかい」
「似ている。僕は悲しいことに、この恋という字の風変りなくずし方を覚えていたのだよ」
「君の細君のかい。……だが君、女の筆蹟なんて、大抵似た様なものじゃないか。……女学校の御手本通りなんだからね」
「そうだ。今度に限ってあいつが東京へ一緒に行くと云い出した訳が分った。あいつはこちらで、君と……イヤもう一人の男と、存分逢う積りなんだ、その下心だったのだ」
そして、それ以上には、お互に云うべき言葉を見出し兼ねた。夜更けの八畳の座敷で、二人はぽつねんと向い合っていた。
「僕はもう帰る」
愛之助が非常に不愛想に云って立ち上った。
「そうか」
品川も白々しい気安め文句は口にしなかった。
玄関をおりて下駄を穿くと、愛之助はひょいと振り向いた。上りがまちの障子に凭れて品川が見送っている。
「一寸君に聞いて置くが」愛之助が無表情な顔で、途方もないことを口にした。「君は本当に品川四郎なんだろうね」
相手はギョッとして思わずうしろを振返った。そして、妙にうつろな笑い方をした。