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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

「品川君、君、品川君だね」

愛之助は大きな声で呶鳴った。

すると、相手は返事をする代りに、ひょいと頭を引込めて、人ごみに隠れてしまった。

「ヤ、あいつだ。幽霊男だ。皆さんちょっとどいて下さい。あいつをつかまえなくちゃならないのですから」

だが迚も身動きが出来なんだ。

「つかまえてくれ。そいつを、つかまえてくれ」

愛之助が不作法にわめいたので、車内の顔という顔が、ハッとこちらを向いた。ゴチャゴチャと重なり合って、愛之助を見つめた。しかも、ゾッとしたことには、その顔がどれもこれも、一つ残らず、皆品川四郎の顔になっていた。

「ワッ」と叫んで、逃げ出そうとすると、何か邪魔になるものが、柔かくて重いものが、ドッシリ胸の上に乗っていた。はねのけてもゴムみたいに弾力があって、又戻って来る。ふと気がつくと、それは暖い芳江の腕であることが分った。

「どうなすったの、苦しそうだったわ」

「いやな夢を見た。……君が、胸の上にこの手をのせていたからだよ」

で、つまり、彼女は次の間の自分の床の中には寝ていなかった訳である。

だが、それから一時間程たって、ある瞬間、愛之助は相手をつき放して、部屋の隅へ飛びのいた。