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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
見世物にはアセチリン瓦斯が、甘い匂を立ててともされた、昼と夜との境、見世物のイルミネーションと、太陽の残光とが、チロチロ入混って、群集の顔が、ボンヤリとうすれて行く、夢の様に美しい一時である。
品川四郎は、いかもの見物にグッタリと疲れた体で、九段坂を降りて行く。
坂の半程に、オランダ渡りと云った風で、お月様の顔を覗かせる、遠眼鏡屋が商売をしていた。安物の天体望遠鏡を据えて一覗き十銭で客を呼んでいるのだ。見ると、いつの間にか、中天に楕円形に見えるお月様が姿を現わしていた。
品川は、その人だかりに、足を止めて、暫く眼鏡屋の口上を聞いていたが、ふと妙なことを始めた。
眼鏡屋のすぐうしろは石垣になっている。槐多の小説の主人公が遺言状を隠した石垣だ。そこの、人だかりで一際薄暗くなった箇所へ、石垣の方を向いて、品川がヒョイとしゃがんだのである。
「オヤオヤ、しゃがんで小便でもするのかな。益々品の悪い男だ」
と思って、ソッと見ていると、品川はしゃがんだまま、ウロウロあたりを見廻していたが、丁度人だかりの蔭で、人通りもなく、見ている人もないので、安心したのか、石垣の一つの石に両手をかけると、ズルズルと、それを抜き出したのである。