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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
一寸の間、物の音か人の声か判断が出来なかった。だが、第二の短い悲鳴で、それが女の声であることが確められた。例の蝋燭の光の洩れている二階からだ。何かしら非常に残酷なことが行われた感じである。
しかも、声はそれっ切りで、又元の深い不気味な、静寂に帰った。いつまで待っても人声は勿論、カタリとも音さえせぬ。
愛之助はもうじっとしていられなかった。彼は柄にもない冒険を思い立った。玄関から這入ったのでは相手に悟られ、どんなひどい目に合うかも知れぬ。それよりもガラス窓を幸、先ず外部から部屋の様子を見届てやろうと決心したのだ。
丁度その窓の外に、二間ばかり隔てて、大きな松の木が立っている。彼はいきなり、電燈工夫の様に、その幹へ這い上った。全身汗びっしょりになって、やっと、窓と同じ高さの枝に達することが出来た。
そこの太い枝に腰かけ、両手で幹につかまり、身体の安定を保ちながら、彼は二階の窓を覗いた。
ガラス戸は締め切ってあったが、ガラス一面にほこりが溜って半透明になっているのと、蝋燭の光が何かの蔭になっていたので、暫らくは何が何だか分らなんだが、よく見定めると、ワイシャツとパンツ丈けの男が、こちらに背中を見せて何かやっていることが分った。