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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

そして娘に会うこと出来ました」

「それはようございましたわなあ。英吉利で何をしておられますの」

「倫敦で保険会社に勤めています。社長の秘書をしています」

「では娘さんも一緒に暮しておられるんですか」

と、貞之助がきいた。

「いいえ、まだです。今娘を取返す訴訟をしています」

「そうですか、それはほんとうに、―――」

「今度手紙をお書きになる時、何卒あたし等からも宜しくと仰っしゃって、―――」

「けれど戦争になったよってに、手紙も時間が懸るようになるやろうな」

「ママさん、心配してはりますやろ」

と、妙子が云った。

「―――今に倫敦かて空襲されまっせ」

「しかし心配なことはないです、妹は大胆ですさかい、―――」

と、キリレンコも大阪弁を出して云った。

法事のあとの宴会は、播半の時の花やかさを覚えている者には佗びしいことであったけれども、善慶寺の庫裡の広間を三間打ち抜いて四十人ほどの人々が膳に就いたところは、そんなに寒々としたものでもなかった。親戚の外にも棟梁の塚田や「音やん」の代理の庄吉など、出入りの者の顔が少しは見え、船場時代に奉公していた人達も二三人は出席した。酒間の斡旋は鶴子以下の姉妹が当る筈であったが、従姉妹たちやお春や庄吉の妻などが働いてくれたので、姉妹たちは殆ど動かないで済んだ。