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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

幸子は、前栽に丈高く伸びた紅白の萩が散りかかっているのを眺めながら、母が亡くなった時の、あの箕面の家の庭の風情を想い出していたが、男たちの多くは欧洲戦争のことを話題に上せた。女たちは例に依って「雪子娘さん」とこいさんの若さを褒めたが、それも辰雄に当て付けがましく聞えないように、程々にした。ただ、昔の店員の一人である戸祭と云う男が酔っ払って、

「雪子娘さんはまだお独りやそうですなあ、―――」

と、末座から胴間声を挙げて、

「いったい何でですねん」

と、無遠慮に畳みかけたので、ちょっと座が白けかかったが、

「うち等はな、どうせ後れついでですよってにな、―――」

と、妙子がことさら落ち着き払った口調で云った。

「―――ゆっくりとええ人を捜しまんねん」

「そうかて、ゆっくり過ぎますやないか」

「阿呆らしい。『今からでも遅うない』云うことがありまんがな」

彼方此方で女たちが控え目な笑い声を洩らした。雪子も黙ってニコニコしながら聞いていたが、辰雄は聞えない振りをしていた。と、国防服の上衣を脱いでワイシャツ一つになっている塚田が、

「戸祭君々々々」

と、向う側から呼びかけて、

「君は近頃、株で大層儲けはったそうやおまへんか」