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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「あんな人の云うこと、信用せんと置いて欲しいわ」

「信用しとうはないねんけど、婆やさんの方には一々証拠の書付が取ってあって、それに基づいて云やはるねんもん。こいさん、それや云うのんやったら、何かそれに対抗する帳簿のようなもの見せてくれたらどうやねん」

妙子も同じように平然として、例の顔色一つ変えるではなかったが、でもそう云われると、無言でじっと雪子の顔を見据えているばかりであった。

「婆やさんの話やと、そんなんはもう何年も前からのことで、洋服だけやあれへん、あの時のあの指環もそうや、コムパクトもそうや、ブローチもそうやと、一つ一つ品物を覚えてはって云やはるねんわ。啓坊が勘当されたのも、こいさんのために店の宝石を胡麻化したのが原因や、云やはるねん」

「………」

「こいさん、そんなに啓坊との関係断ちたい思うてたのんやったら、今迄にかて何ぼでも断てたやないの。板倉の時かて好え機会やったのんに。………」

「そうかてあの時分、縁切ることに賛成してくれはれへなんだやないの。………」

「あたし等は啓坊と結婚させたい思うたよってに、賛成せえへなんだけど、一方では板倉とあんな仲になってながら、一方では啓坊を経済的に利用してる云うことが分ってたんやったら、考えようもあってんわ」