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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
と呼ばれるのが、擽ったくもあり気持悪くもあった。
「ほんとうに、光代さんだってお忙しゅういらっしゃるのでしょうに、お出迎え恐れ入りましたわ」
「いいえ、どう致しまして。―――でも正直を申しますと、今月は二千六百年祭でいろいろの催しがございますので、雑誌の方も相当忙しゅうございますの。そこへ持って来て母の用事をさせられるものでございますから、………」
「この間は観艦式がございましたんですね」
「観艦式の明くる日が、大政翼賛会の発会式、それに靖国神社の大祭も始まっておりますし、廿一日には観兵式もございますし、今月の東京は大変なんでございますのよ。宿屋なんか何処も超満員で、………あ、そうそう、そんな訳なのでホテルも申込が殺到しておりますもんですから、お取りしてはございますけれども、余りいいお部屋じゃございませんのよ」
「ええ、ええ、どんなとこでも結構でございますわ」
「狭い部屋なのは仕方がないとして、シングルベッドが二つしか入れてございませんでしたので、それじゃ困るからって、やっと一つだけダブルに替えて貰いましたの」
途々光代は自動車の中でそんな風に話しながら、何分そう云う事情であるから、歌舞伎の切符なども、出来れば今日の分をでもと思ったのであるが、十日ぐらい先のでもなかなか普通の方法では手に入らないのであること、それでも