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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
「こいさん、今の間にバスに這入ろう」
と、妙子と代る代る風呂に漬かった。それでも雪子が寝ているのを、起して風呂を使わせたり、昼の食堂に出たりしたけれども、心待ちにしていた井谷がなかなか現れそうもないので、午後からは三人で銀座へ出かけた。そして、懸案になっている井谷への餞別の品を、何は措いても調えてしまわなければと、彼方此方の飾窓を覗いて歩きながら、洋行する人にハイカラな物は気が利かないし、何か日本の特産品で彼方の人に喜ばれそうな物はと頭を捻った末、ふと服部の地下室で螺鈿の手筥を見付けたので、それを幸子からの進物とすることにきめ、別に御木本で真珠入りの鼈甲のブローチ兼用のクリップを買って、それを雪子と妙子との連名で贈ることにした。三人はもうそれだけで好い加減くたびれてしまい、コロンバンで一と休みすると、まだ買物が残っているのに、
「もう帰ろうな帰ろうな」
と、妙子が先に立って云うので、四時半頃にホテルに帰ったが、部屋に這入ると、卓上に蘭の花を活けた花瓶が置いてあり、「お帰りになったらお知らせ下さい、御一緒にお茶を戴くつもりでお待ちしております」と記した井谷の名刺が添えてあった。