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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

京都ではあんまり使わないようでございますが」

と、幸子が云った。

井谷が「いかがでございます」と、これも何処かからの贈物らしいチョコレート菓子の缶を出したが、一同お腹が出来ているので、誰も手を出す者がなく、番茶ばかりがよく売れた。と、光代が、御牧さんにサーヴィスなさいよと、母にすすめて、ウィスキーを部屋に取り寄せたので、御牧は遠慮する風もなく、ボーイさん、これごと置いてってくれ給えと、角罎を傍へ引き寄せて、チビリチビリやりながらしゃべった。会話は井谷が巧い工合に引き出すので、ソツがなく運んで行ったが、御牧さんは家をお持ちになるとして、東京でなければいけませんの? と云う風な質問が緒になって、御牧は自分の身の上のことや将来の計画などについて、いろいろな事実を洩らした。―――今光代さんは自分のことを京都人であると云われたが、御牧の家は祖父の代から東京小石川に本邸を移したので、自分は東京生れであること、自分の父の代までは純粋の京都人であるが、母であった人は深川の生れだったと云うことであるから、自分の体には京都人の血と江戸っ児の血とが半々に流れていること、左様な次第で、自分は若い時分には京都の土地に何等の興味をも感ぜず、寧ろ欧米の生活に憧れを寄せていたのであったが、近頃になって祖先の地に対するノスタルジアのようなもの