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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

彼女としてはあらゆる方面の圧迫に抗しても思いを遂げようとした恋愛に、突然終止符を打たれたのであるから、暫くは茫然として途方に暮れたらしかったが、くよくよすることが嫌いな性分なので、自分から元気を引き立てて、いつの間にか又洋裁学院へ通い始めたりして、内心は兎に角、見たところでは直きに平素の活動的な彼女に復っていた。幸子もそれには感心して、今度ばかりはさしものこいさんも少からず参っているに違いないのだけれど、そう云う弱味を見せないのがえらい、さすがにこいさんはいろいろなことを仕出来すだけあって、あたしなどには真似の出来ないところがあると、貞之助に云っていたのであるが、あれはたしか七月の中旬のことであった、或る日幸子は桑山夫人を案内して神戸の与兵へ昼御飯を食べに行った時、今しがた妙子から電話があって、晩の六時に二人分の席を予約したと云うことを聞いた。妙子はその朝家を出たきりなので、何処から電話を懸けたものとも分らなかったし、二人連れと云うのも見当が付かなかったが、この頃こいさんは二度ばかり男のお方とお見えになりましたと、与兵の若い者が云った。幸子は何と云う訳もなくはっとして、その連れの男の人体を問い質して見たかったのであるが、桑山夫人の前があるので、ああそう、と、わざと軽く聞き流してしまった。