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だっせんむすこ
脱線息子
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页
何ういう御用でございますか?」
という切り口上だった。新太郎君はへどもどしながら、
「御主人の御容態は如何でございますか?」
と訊いた。
「極く順調でございます。はい。失礼ながら、あなた様は石川さんと仰有いましたね?」
「いゝえ、西川です」
「石川さん?」
「西川です。東西の西です。西川です」
「何処の西川さんでございますか?」
「銀座の西川です」
「銀座? 松浦の御友人でいらっしゃいますか?」
「いゝえ、はあ」
「御商売は?」
「羅紗屋です」
「あゝ、洋服屋さんですか? 然う申して置きますよ。はい」
と彼方から切ってしまった。新太郎君は落胆した。秀子さんのお母さんに頭をコツンと打たれたような心持だった。お父さんの病気騒ぎで松浦さんから未だ話の出ていないことが確実に分った。
「それにしても洋服屋さんですかとは失敬だ」
と新太郎君は額の汗を拭きながら、
「宮地さんが出動しているものか。寛一め、ちゃらっぽこばかり言っていやがる」
一等賞を当てにして走る選手は第一着の見込が影薄くなるにつれて歩調を緩める。新太郎君も親の安心と自分の本務を考えないではないが、美しい賞品が更に大きい動機を為していたから、一月半も驀地に走った今日、一向それに近づけなくては励みがない。