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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「黙っていると思って馬鹿にするな」

と見本を示した。

「この通りでございますのよ」

と貞子夫人はもう諦めて笑っていた。この日清次郎氏は殊に出来が悪かった。容態としては申分ないのに、独言を連発した。

客間でお茶を戴きながら、兄さんは、

「貞子さん、これあるかなですよ」

と言い出した。

「何でございますの?」

「清次郎の頭は毀れました」

「確かに異状がございますわ」

「貞子さん、あなたは三十年間清次郎を圧迫なさいました」

「まあ!」

「清次郎は思うことが言えなかったんです。恐らく三十年間の鬱憤が頭の中に溜っているんでしょう。あの繰りごとは皆死んで行く人間の声ですよ」

「兄さん、御冗談を仰有っちゃ厭でございますよ」

「死病の勢で初めて思うことが言える。俺はあれの今までが可哀そうでなりません。鳥の将に死なんとするその鳴くや哀し。人の死なんとするその言や善し」

「兄さん、あなたは何を仰有いますの?」

「貞子さん、大切にしてやって下さい」

「私だってそんな邪見な人間じゃございませんよ。長の年月ですから、多少の我儘はありましたろうが、随分仲良く暮して来ましたわ」

「それは分っています。しかし清次郎が弱過ぎたのです」