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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「ところで、お直や、俺も転地療養を勧められて来た」

「まあ、丹波さんはそんなに手重に仰有いますの?」

「いや、極く軽いんだが、家にいると何うしたって店へ顔を出すから、頭が休まらない」

「それも然うでございますわね」

「転地をして当分何も彼も忘れるのさ」

「稀には御保養が宜しゅうございますよ。温泉へでもお供しましょうか?」

「いや、温泉はいけない。海岸が好いそうだから逗子へ行く」

「あなた、真正でございますの?」

「真正さ。新太郎の宿が明くから入れ代る。何んなものだろうな?」

と西川さんは細君の顔を見詰めた。

「さあ」

「俺は一人で行くよ。お前がついて来ると家が無人になるから矢っ張り気を揉む」

「あなた、実は新太郎は八月中旬までいたいと言っていますのよ」

と細君はズル/\ベッタリにする積りだったが、話の出た序を利用した。

「それなら一緒でも宜い」

「あなたは宜しくても、新太郎が窮屈でございましょうよ」

「親を窮屈がるような息子じゃないと思っているがね」

「新太郎は兎に角御近所が如何でございましょうかね」

「近所って?」

「松浦さんですよ。あなたはその娘さんが申分なければ貰ってやると仰有ったじゃございませんか?」