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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
国籍とかいうものについても同様です。戦争中、上海では、某々国の領事国でひそかに国籍を売っていたことがありますが、そんなものを買う人間こそ、たとい実際上の必要から出たことかも知れませんが、僕から見れば、実にばかの骨頂です。」
調子は皮肉でもなく、ふざけてもいず、至極当り前だという風だった。余りに当り前だという風だったので、却って、その言葉は妙な印象を与えた。ふーっと陽が陰ってくるような印象だった。二三の拍手が起りかけて、すぐに静まった。まぜっ返す者もなかった。
その時、田島が少し勢いこんで反駁した。
「只今の菅原君の説には、僕は賛成しかねますな。そのようなのは、最悪のニヒルとさえ思います。敗戦によって、吾々は、郷土を遠くへ失ったという感じを覚ゆるし、祖国を遠くへ失ったという感じさえ覚えます。その郷土を身近に取り戻すことと、祖国を身近に取り戻すこと、つまり、郷土愛や祖国愛を新たに覚醒させることが、日本の再建に最も必要なことと考えます。現在、右翼にせよ左翼にせよ、政治界に、民族主義的理念が生れかけているのは、新たな日本再建を目指すからに外ならないし、その理念も、郷土愛や祖国愛に立脚するものです。