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きくやしき

菊屋敷

山本 周五郎

「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页

青空文庫

「なにが妙なのですか」

「ふだんはみんな温和しいけれど、酒を飲むと急に元気がでるのですもの、みんないつもあんなに威勢がよくはありませんよ」

「まあ晋太郎、あなたは……」

門人たちはまさに面へ一本くった感じで、ひとりが「まいった」というのといっしょにみんなどっと笑い崩れた。志保は眼をみはった、晋太郎がそのようなもの云いをしたことはない、こんな大勢の青年たちからいちどに詰寄られれば、赤面してものも云えないと思っていた、それがいま平然として、子供らしいが辛辣な批評をさえ投げつけている、――こんな臆さないところがあったのか、志保はふしぎな感動にうたれながら、そっとわが子の横顔を見まもるのだった。

「……子供の言葉は怖ろしいな」庄三郎がふとそう云った。晋太郎が去り、かなり盃がまわってからのことである、声の調子が違うのでみんなかれのほうへ眼を集めた。

「酒に酔うと元気が出るという、常にはあんな威勢がないという、……われわれはこうして月に一回この塾へ集り、国史の勉強から始めて、現在では幕府政治の検覈にまではいって来ている、こうして集っているときは慷慨の気に燃え、大義顕彰の情熱に駆られるが、塾を去って独りになるとき果してその情熱が持続しているかどうか、……われわれの血にながれている伝統のちからは根づよい、父祖代々、幕府の扶持を