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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

ある。窓に据わっていて、池の景色を見る。往来の人を見る。今跳ねたのは大きな鯉であった。今通った西洋婦人の帽子には、鳥が一羽丸で附けてあった。その度毎に、「お玉あれを見い」と云いたい。それがいないのが物足らぬのである。

三日四日となった頃には、次第に気が苛々して来て、女中の傍へ来て何かするのが気に障る。もう何十年か奉公人を使ったことがないのに、原来優しい性分だから、小言は言わない。只女中のする事が一々自分の意志に合わぬので、不平でならない。起居のおとなしい、何をしても物に柔に当るお玉と比べて見られるのだから、田舎から出たばかりの女中こそ好い迷惑である。とうとう四日目の朝飯の給事をさせている時、汁椀の中へ栂指を突っ込んだのを見て、「もう給仕はしなくても好いから、あっちへ行っていておくれ」と云ってしまった。

食事をしまって、窓から外を見ていると、空は曇っていても、雨の降りそうな様子もなく、却って晴れた日よりは暑くなくて好さそうなので、気を晴そうと思って、外へ出た。それでも若し留守にお玉が来はすまいかと気遣って、我家の門口を折々振り返って見つつ、池の傍を歩いている。