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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

拾捌

こん度は歩き方が緩やかになって、折々籠を持ち上げては、中の鳥を覗いて見た。喧嘩をして内を飛び出した気分が、拭い去ったように消えてしまって、不断この男のどこかに潜んでいる、優しい心が表面に浮び出ている。籠の中の鳥は、籠の揺れるのを怯れてか、止まり木をしっかり攫んで、羽をすぼめるようにして、身動きもしない。末造は覗いて見る度に、早く無縁坂の家に持って往って、窓の所に弔るして遣りたいと思った。

今川小路を通る時、末造は茶漬屋に寄って午食をした。女中の据えた黒塗の膳の向うに、紅雀の籠を置いて、目に可哀らしい小鳥を見、心に可哀らしいお玉の事を思いつつ、末造は余り御馳走でもない茶漬屋の飯を旨そうに食った。

拾捌

末造がお玉に買って遣った紅雀は、図らずもお玉と岡田とが詞を交す媒となった。

この話をし掛けたので、僕はあの年の気候の事を思い出した。あの頃は亡くなった父が秋草を北千住の家の裏庭に作っていたので、土曜日に上条から父の所へ帰って見ると、もう二百十日が近いからと云って、篠竹を沢山買って来て、女郎花やら藤袴やらに一本一本それを立て副えて縛っていた。しかし二百十日は無事に過ぎてしまった。