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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

弐拾肆

遠近の差は少い。又この場合に問う所でも無い。障礙物は巡査派出所だが、これはどちらにも一箇所ずつある。そこで利害を比較すれば、只振かな切通しを避けて、寂しい無縁坂を取ると云うことに帰着する。雁は岡田に、外套の下に入れて持たせ、跡の二人が左右に並んで、岡田の体を隠蔽して行くが最良の策だと云うのである。

岡田は苦笑しつつも雁を持った。どんなにして持って見ても、外套の裾から下へ、羽が二三寸出る。その上外套の裾が不恰好に拡がって、岡田の姿は円錐形に見える。石原と僕とは、それを目立たせぬようにしなくてはならぬのである。

弐拾肆

「さあ、こう云う風にして歩くのだ」と云って、石原と僕と二人で、岡田を中に挟んで歩き出した。三人で初から気に掛けているのは、無縁坂下の四辻にある交番である。そこを通り抜ける時の心得だと云って、石原が盛んな講釈をし出した。なんでも、僕の聴き取った所では、心が動いてはならぬ、動けば隙を生ずる、隙を生ずれば乗ぜられると云うような事であった。石原は虎が酔人をわぬと云う譬を引いた。多分この講釈は柔術の先生に聞いた事をそのまま繰り返したものかと思われた。