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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

拾漆

とお貞が云った。

「あなた好く御存じね」と大胆にお玉が云った。

「上条のお上さんも、大勢学生さん達が下宿していなすっても、あんな方は外にないと云っていますの」こう云って置いて、お貞は帰った。

お玉は自分が褒められたような気がした。そして「上条、岡田」と口の内で繰り返した。

拾漆

お玉の所へ末造の来る度数は、時の立つに連れて少くはならないで、却って多くなった。それはこれまでのように極まって晩に来る外に、不規則な時間にちょいちょい来るようになったのである。なぜそうなったかと云うに、女房のお常がうるさく附き纏って、どうかしてくれ、どうかしてくれと云うので、ふいと逃げ出して無縁坂へ来るからである。いつも末造がそんな時、どうもすることはない、これまで通りにしていれば好いのだと云うと、どうにかしなくてはいられぬと云って、里へ帰られぬ事や、子供の手放されぬ事や、自分の年を取った事や、つまり生活状態の変更に対するあらゆる障碍を並べて口説き立てる。それでも末造はどうもすることはない、どうもしなくても好いと繰り返す。そのうちにお常は次第に腹を立てて来て、手が附けられぬようになる。