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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

拾肆

下を向いてずんずん歩いていて、我家の門を通り過ぎようとしたのである。

女中が無遠慮に笑った。

拾肆

朝の食事の跡始末をして置いて、お常が買物に出掛ける時、末造は烟草を呑みつつ新聞を読んでいたが、帰って見れば、もう留守になっていた。若し内にいたら、なんと云って好いかは知らぬが、とにかく打っ附かって、むしゃぶり附いて、なんとでも云って遣りたいような心持で帰ったお常は拍子抜けがした。午食の支度もしなくてはならない。もう間もなく入用になる子供の袷の縫い掛けてあるのも縫わなくてはならない。お常は器械的に、いつものように働いているうちに、夫に打っ附かろうと思った鋭鋒は次第に挫けて来た。これまでもひどい勢で、石垣に頭を打ち附ける積りで、夫に衝突したことは、度々ある。しかしいつも頭にあらがう筈の石垣が、腕を避ける暖簾であるのに驚かされる。そして夫が滑かな舌で、道理らしい事を言うのを聞いていると、いつかその道理に服するのではなくて、只何がなしに萎やされてしまうのである。きょうはなんだか、その第一の襲撃も旨く出来そうには思われなくなって来る。お常は子供を相手に午食を食べる。