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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

玖

この頃は夜も吹抜亭へ、円朝の話や、駒之助の義太夫を聞きに行くことがある。寄席にいても、矢張娘が留守に来ているだろうかと云う想像をする。そうかと思うと又ふいと娘がこの中に来ていはせぬかと思って、銀杏返しに結っている、若い女を選り出すようにして見ることなどがある。一度なんぞは、中入が済んだ頃、その時代にまだ珍らしかった、パナマ帽を目深に被った、湯帷子掛の男に連れられて、背後の二階へ来て、手摩に攫まって据わりしなに、下の客を見卸した、銀杏返しの女を、一刹那の間お玉だと思った事がある。好く見れば、お玉よりは顔が円くて背が低い。それにパナマ帽の男は、その女ばかりではなく、背後にまだ三人ばかりの島田やら桃割やらを連れていた。皆芸者やお酌であった。爺いさんの傍にいた書生が、「や、吾曹先生が来た」と云った。寄席がはねて帰る時に見ると、赤く「ふきぬき亭」と斜に書いた、大きい柄の長い提灯を一人の女が持って、芸者やお酌がぞろぞろ附いて、パナマ帽の男を送って行く。爺いさんは自分の内の前まで、この一行と跡になったり、先になったりして帰った。

玖

お玉も小さい時から別れていたことのない父親が、どんな暮らしをしているか、往って見たいとは思っている。