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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

しかし檀那が毎日のように来るので、若し留守を明けていて、機嫌を損じてはならないと云う心配から、一日一日と、思いながら父親の所へ尋ねて行かずに過すのである。檀那は朝までいることはない。早い時は十一時頃に帰ってしまう。又きょうは外へ行かなくてはならぬのだが、ちょいと寄ったと云って、箱火鉢の向うに据わって、烟草を呑んで帰ることもある。それでもきょうは檀那がきっと来ないと見極めの附いた日というのがないので、思い切って出ることが出来ない。昼間出れば出られぬことはない筈だが、使っている小女が子供と云っても好い位だから、何一つ任せて置かれない。それになんだか近所のものに顔を見られるような気がして、昼間は外へ出たくない。初のうちは坂下の湯に這入りに行くにも、今頃は透いているか見て来ておくれと、小女に様子を見て来させた上で、そっと行った位である。

何事もなくても、こんな風に怯れがちなお玉の胆をとりひしいだ事が、越して来てから三日目にあった。それは越した日に八百屋も、肴屋も通帳を持って来て、出入を頼んだのに、その日には肴屋が来ぬので、小さい梅を坂下へ遣って、何か切身でも買って来させようとした時の事である。