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しんさいこうき

震災後記

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第四号」1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,544 字 · 41 页

青空文庫

大学職員は多く山の手方面におられるので、割合に罹災者は少いようだったが、その中にかねて心配していた和田英松博士は、あの沢山の蔵書も皆丸焼けになって、今は中野へ避難しておられるという。今日は出勤がないので、親しく慰問の辞を呈することも出来なかった(追記。後に聞けば中村勝麻呂君も焼き出されたという。お気の毒なことだ)。

上野公園内には、平素は禁足地の芝生にまで避難者の小屋が至る所に建っている。警視庁建築のはずのバラックは、敷地の指定だけでまだ着手に及んでいない。見晴らしから眺めた下町一帯の焼野の原には、はやくもバラックがだんだん見え出したが、すぐ下のかの広い停車場はまだそのままだ。博物館内には、事務所の縁側や廊下にまで気の毒な人々が一パイに詰まっている。見かけたところ、たいていは浴衣一枚の着のみ着のままだ。喰べ物だけはともかく配給を受けているであろうが、夜分をどうして凌いでいるであろうと気の毒でならぬ。これからだんだん朝夕の寒空に向って、この末果してどう落ちつくことであろう。

歴史部を訪うて懇意な部員諸君の安否や、あの震災の日に東京へ来られたはずの京大梅原〔(末治)〕君の安否を尋ねた。